244 原罪の伽藍テーブル
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[此方を窺う、犀川の顔を見る。精神の不安定から来る胃の荒れや、つい噛み締めたり爪で掻いたりする癖やのせいだろう、その薄い唇は荒れていて、隆起した中央や口角は些か皮も捲れ、今も僅かに血が滲んでいるようだった。
ぎょろりとした目が、常に大きく開かれているのに案外乾かないらしい、常在の涙でつやつやとした目が、此方を見ている。
見慣れた顔、此方を案ずるその顔を見て、思う。ああ、
おいしそうだなあ。]
[刻々と温度を失っていく液体が、喉を滑り落ちる。不味い、――とも思わない。それは、ただ、無味だった。何の味も、其処には存在しなかった。目の前の皿に並ぶ肉も魚も野菜も果物も、みな、同じだった。全てが同じ味だった。全てが同じ、無味だった。
おいしそうだなあ。
犀川がミルクを口に運ぶ。男と同じように。少量の食事を、少しずつ、少しずつ、食べていく。細く長い指が、骨の形がはっきりとわかる痩せた指が、動かされる。唇が開閉する。喉元が蠢く。食欲不振な彼は、それでも何処か美味しそうに食べているように見える。調子が良い時は、良い方の時は、彼もそのように見えるのだ。そのように、食事を美味しそうになど、するのだ。その姿を眺める。それとなく見つめる。美味しそうな様子の彼を。美味しそうな彼を。美味しそうな。
おいしそう、だなあ。
…… *]
おなか、すいたなー
[とん、とん、とん、階段を下りる。
味のしないものを食べることに慣れないまま、智秋が此処にきてもう1年が経つ。
かつての恋人は言った。
「好きだから食べたいんだ」
「好きだから美味しいんだ」
智秋は笑って、「そんなの嘘だよ」と言った。
いくら好きでも美味しくなかった。
食べて、というから食べてみたけど、
不味くもないし、ただ味がしなかった]
[羨ましかった。
フォークでもないくせに、美味しいと言って人を食べるのが。
本当はその時自覚はなかったのだけれど、いつからか智秋の記憶の中ではそうなっている。
本当は、目覚めたのは―――
彼をほんの少し齧ってみてから、今まで美味しかったものの味がわからなくなったのだ。
ただの異常性愛者だった彼は「フォーク」と呼ばれた。
皆に「ケーキ」と呼ばれる智秋は、飢えを隠して自分を騙している。
「普通」を装っている]
おなか、すいたなー
[とん、とん、とん、と階段を下りていく]
[気配とそれと、 場所にそぐわぬ甘い匂いに
智秋の機嫌は上向いて、空っぽの胃はぐうと鳴いた]
[食堂を出る前。
傷だらけの舌が、ちろりフォークを撫でる。
一度だけ、元作家と
「フォーク」へと、ちらり、視線を送って。]
[揺らぎ気味の瞳は、真っすぐに
にぃ、と、 わらった。]
[去り際、向けられる視線。
笑いを作る瞳。
それらを見送る目に過ぎったのは、犀川をじっと見つめていた刹那と通じる色だ。他の誰も気付きはしないだろうもの、
他の誰も気付いてはいない。
男の、また「彼」の、存在には。
まだ気付いてはいないのだ]
[その望みが叶えばいい。
そう思うのは、紛れもなく、事実だ。ケーキを喰らうフォークの宴、足を潰された元女軍人、陰惨を絶望を経てなお消えぬ強い意志、高熱の炎のようなそれを以て、血に彩られながら復讐を果たす――
ああ、それは、とても胸躍る、
とても美しい、復讐譚じゃないか。
……
それが失敗に終わったとしても。
たとえば彼女の悲惨な死で終わるとしても。
それだって、美しい、素晴らしい、
残虐劇だとは、思うけれど]
……、
[彼女は復讐の事を誰にでも話しているわけではない。むしろ男は特別に教えられた、立場らしい。
よりによって、復讐すべき相手の同類を選んだ、選んでしまった、彼女の誤謬を思うと、それはあるいは喜劇めいているようで、今でもたまに少し笑いそうになってしまうのだ。
無論それを本当に漏らしてしまう事はない。ただ神妙に彼女の相談相手つなるばかりなのだ、今日も]
[いつだって
歪む口唇が語るのは、事実ばかりだ。
嘘を吐けるほど
正常を残しているわけではない。
事実だ。真実だ。
どれも、これも。]
[風に紛れた小さなそれも]
“だいすきですよ”
“「フォーク」って存在が”
[いつか
誰かの前で零した言葉も。*]
[くちゅり くちゅり
粘着質な音を立て、咥内をかき回す。
口唇を開けば、その隙間から
真っ赤に汚れたフォークが顔を覗かせて。*]
[食事は苦手だった。
味がしないものを飲み込むのは不自然なことで、
それを人前で上手くこなせる経験も演技力も足りなかったから]
……いちごジャム、みたいな
[甘い匂い。
果物を煮詰めて、香りを強くしたような、濃い匂い。
それが彼の血の香りで、
彼を目の前にすると、味のしないパンも、かつてジャムを塗って食べた時みたいな勘違いを起こすから。
食堂で会うには、最良の人だった]
いちご、じゃむ
いりますか?
[職員さんは厨房の中
食堂には二人きり。
真っ赤なフォークを差し出してみることも、少なくはなかった。
それをするのは
自分たち以外、誰もいないときに限るけども。]
― Page XX ―
有り体に言えば、勘というもので。
一目惚れとはこんな感覚なんだろうなぁ、なんて。
逆上せたような頭が考えていたのを覚えている。
他の誰も気づいていない。
まだ、気づいてはいない。
「たべないんですか、ケーキ。」
「おいしいですか。」
施設に来て、数か月も経たない頃。
そう、声をかけたことだって
他の誰も、知らないこと。*
うん、 ……やっぱり、まずいよこれ
[パンを指さし、その手を伸ばして真っ赤に濡れたフォークを受け取った。
その手は少し震えていて、本当はジャムさながらパンに塗りつけようかと思ったのに(そうすればパンも美味しく食べられるから)待ちきれない、というように舌を伸ばして]
……ん、 ふふ
[とびっきり美味しいものを食べた時、思わず笑ってしまうように。
はりつけたものではない笑みを満面に浮かべて、フォークに絡みついた血を舐めとった]
― 無知の頃 ―
[怯えた目を彼に向けたのは、それが最初で最後だった。
傍から見れば、体格も違う男二人。
ケーキの味を知らず、欠けた何かを見つけようと施設での日々を過ごしていた智秋にとって、フォークだと見破られるのは、恐ろしくて―――]
……食べたこと、 ないよ
[ようやく絞り出したのはそんな言葉。
味を知らぬからこそ我慢が出来た。
行き場がないからこそ、自制が出来た。
それは数ヶ月前のこと。
ケーキの味を知らなかった頃のこと。
味を知るまで………あと、少し]
[差し出したカトラリー
美味しそうに、それへと這う舌を見れば
どこか、愛しげにも、優しくも見えるような
柔らかな微笑みを一つ。
木製がすっかり綺麗になれば
その柄へと、手を伸ばして。]
[智秋の浮かべた笑みは本当だ。
肉叢の浮かべたものも、常とは違うように見えてもきっと本当だ。
だって、今の二人は何も嘘をついていない。
何も偽ることがない。
ケーキを食べたことがないフォーク。
フォークとして目覚めてよりすぐ此処に押し込められたから、極上のケーキの味もよく知らない。
それでも最初から、肉叢の血を啜ることに抵抗はなかった。
嫌悪感もなかった。
それこそ食べ物に混ぜて、食堂の飯を無理やり飲み込んだこともある。
かつての恋人みたいに、食べ物に混ぜて……。あの時は、こんなに美味しくなかったのに]
[……
ああ。何故だろうね?
君達「ケーキ」が生まれてきたのは。
何故だろうね。
君達を食べる、僕達「フォーク」が出来たのは。
――神か なんかの
気まぐれ なのかなあ ――
遠くそう呟いた声をふと思い出した、
いつか、 呑み込んだその声を]
[怯えた目に返すのは、どこまでも穏やかな色のそれだった。
慈愛にも似た、「フォーク」への好意を
何一つ、隠すこともなく。]
、 ないんだ、ないんですか
ひ、じゃあ ――――
[半端に閉ざした唇は
深く、深い弧を描いた。]
[「ケーキ」を食べたことがない「フォーク」。
裂いた腹へ、彼の唇を誘い込み
味を教え込んだのは、そう遠くない日のこと。
指を刺した。飯へと注いだ。
職員は、奇人とは目も合わせたがらず
それが、好都合だった。
赤いフードの影に隠した表情は
日課のときより、痛みを与えられた時よりも
隠しきれない喜色満面。
「フォーク」を見たときは、いつも。*]
[少しだけ、恨んでいる。
あの甘さを教えてくれたこと。
食べていいと許してくれたこと。
知らなきゃよかった。―――知ってよかった。
あの、悦びを。
苺みたいな、キャラメルみたいな、チョコレートみたいな
それぞれ違う香りに囲まれて、
智秋の中にあいた穴は少しずつ広がっていった]
[甘い匂いのしない人。
呉羽に向ける視線は物言いたげで、
けれど、張り付けた笑顔以外の顔を向けることはなかった。
経験の浅いフォークは確証を持てずにいたけれど、
わかりやすい言葉を交わさなくとも、
きっとお互いに気付いていた。
「ケーキを食べたことがある?」
「まるごと。一人分」
「そうしたらどれだけ、 どれだけ幸せになれるだろう」
いつか、聞いてみようか。
いつか]
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