―食堂から廊下―
[声を掛けられて振り向くと>>39、げ、音が漏れるのは止どめたが、唇の形は、表情は、同じい意味を形作って居たかもしれない。
最も、彼がそれを斟酌するかは、未だ持って不明であるが。
先程檀と話していた時に、脳裏に浮かんだ赤いパーカーを目の前に、食べたばかりの胃がきゅっ、と引き絞られた。
怯えたような視線は首筋、手首の露出された肌を探るが、今は浅い褐色の肌に生々しい赤の跡はない。ただ、意味深に抑えられた腹のあたりに視線が落ちた。
口の中から、最後に食べたオレンジの甘みが消え、徐々に胃液の苦味が広がっていく。]
………
[黙って、今しがた出てきたばかりの、5歩も歩けば充分な食堂の入口を指し示した。
彼と真っ当な会話をしようとする事は、既に入所数月の時点で諦めた。
だから黙って、聞かれたことにだけ答える。]
(54) 2017/04/02(Sun) 22時頃